養殖魚の生産効率についてなど(長いです)

日本で養殖されている魚の多くは肉食魚になります。
なので、餌にはタンパク質・脂肪が多く含まれ、炭水化物はあまり含まれていません。

Qでは、そのタンパク質・脂肪の原料はなんでしょうか?
A:実は、天然魚です。なので、養殖魚を無限には生産できません。

Q魚類養殖の生産効率は?
A:増肉係数(魚が1kg太るのに必要な餌の量)という指標でみると、
ブリでは2.8前後、時には3以上。
マダイでも2.7前後でしたが、最近は小さめの出荷も増えているので2.0くらいの時も。
増肉係数は、稚魚期には1前後ですが、サイズが大きくなるにつれて悪化します。
サーモンは出荷サイズでも1.2前後です!すごいですね。
ニワトリ:2.0、ブタ:3.0、ウシ:10前後!

その他、増肉係数については下記をご覧下さい。

増肉係数については、評価の上で難しい点があります。
1.  餌の重さは乾燥重量(水分を含まない)だけど、魚(その他の動物も)の重さは湿重量(水分を含む) で計算すること。⇒水太りでも数値上は良くなる。
2.  他の動物と生産効率を比較して、しばしば魚は効率が良い!とは言われますが、そもそも食べている餌が違う事。⇒なので、単純に優劣を言及するのはどうかと

増肉係数は、良くも悪くも水物と言われますので、
栄養成分が成長に使われているかの(効率の)指標として蓄積率があります。

蓄積率(%=100×(魚体に蓄積された栄養素の重さ)÷(餌として摂取した栄養素の重さ)

これをタンパク質、脂肪(時には熱量として)それぞれで算出します。
ブリの幼魚ですと、タンパク質の蓄積率は20-30%前後、脂肪の蓄積率が50-60%ぐらいです。
つまり、これが成長に利用された飼料中の栄養素ということになります。
逆に考えると食べた餌のタンパク質の7割近く、脂肪の5割は活動のエネルギーに使われてしまいます。
もったいないと思うでしょう?でも、これが生物生産の現実です。
その効率が良い動物種のお肉ほど安くなり、反対のケースでは高くなります。

そして、多くがエネルギー源として消費されてしまうタンパク質の源は「魚粉(天然魚由来)」になります。そのため、養殖魚の生産は、「大きい魚に小さい魚を食べさせて、タンパク質の付け替えをしている。」とも言えます。
天然魚の資源量も枯渇しつつあることから、現在ではできるだけその使用量を減らす試みがされています。
従来の餌の魚粉含量は50-60%(仔魚用は仕方ないけど、もっと高い)でしたが、今では30%程度の飼料も普及しつつあります。

魚粉を代替(だいたい)するタンパク質源として、
・大豆油粕
・ナタネ油粕
・コーングルテンミール
・魚の加工残渣(これも魚粉なのですけど、人が食べない部分ということで。)
・ニワトリの加工残渣
・家畜の加工残渣【日本では基本的に利用されていない】
・昆虫【日本では一部のみ】
・バクテリアタンパク【日本では基本的に利用されていない】などの利用が進められています。

けれど、代替タンパク質は魚粉に比べると魚の成長や抗病性が劣ってしまうことが多いです。
現状、栄養素の面をそれなりにクリアしても魚粉のすべての代替は難しく、ある程度の含量(ブリ・マダイの安全ラインは、個人的に30%くらい)が必要となります。
さらに、タウリンなどの不足する栄養素を補うことが必要となり、結果として餌が高くなったりもします。
無理な魚粉代替をすると、増肉係数も悪化します。⇒増肉コストが悪化します。
成長がゆっくりになることから、生け簀の回転率も落ち、経済性がかなりダウンします。

ここら辺が、研究の大きなテーマとなっており、うん十年前から研究がなされています。
SDGs達成の観点からも、魚粉への依存を減らすことが急務となっています。
それを後押しするものとして、エコラベル認証があり、「ASC認証」はこの点を厳格に定めています。
ブリの場合、下記の数式が当てはめられます。
FFDRm=飼料中の魚粉含量(%) × 増肉係数 ÷ 24
FFDRm4.8以下であること。この24は、餌のタンパク質の割合を基に用いられています。
ASCは認証としての基準が厳格です。でも、審査費用がお高く、個人の生産者で取得するのはちょっと難しいです。しかもこの魚粉にも基準があるので、かなり厳しい基準です。

現在のブリ養殖ではかなり達成するのが難しく、これが段階的にさらに厳しくなります。
あと、餌の原料が変わると、当然、魚の味も変わってしまう心配もあります。
いろいろと難しいのが現状です。

ということで、餌の研究テーマは沢山ありますので、是非、学生の皆さんに餌の研究に興味をもってもらうと嬉しく、そして、企業の方々には研究費の支援をもっとお願いしたいです。

とりとめのない文章になりましたが、質問があれば遠慮無く。



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