飼育試験について


最近、新規事業として養殖業へ興味を持つ企業も増えました。
毎度、同じ事を説明するのは性分上苦手なので、
ここに飼育試験のお願いについてまとめます。

注意事項
1. 養殖魚の種苗は、メダカやキンギョとは違い、いつでも購入が可能な訳ではない。

1-1. 種苗について
実際には、海の生け簀にいる魚を持ち込めばいつでも購入はできますが、
当研究室が利用する施設では防疫上の問題で、外部からの魚の持込を認めていません。
持ち込めるのは人工種苗で沖だし前(海上生け簀に出す前)の魚に限ります。

マダイは春種苗(春仔)と秋種苗(秋仔)の年2回が基本となります。
春は4月、秋は12月に搬入することが多いです。
導入時のサイズは3 gくらいです。

ブリ(モジャコ)は今の所、春種苗(春仔)のみとしています。
5月くらいの搬入になります。
導入時のサイズは3 gくらいです。

1-2. その他の魚種
要相談となります。ただ、入手できる時期はいずれの種苗でも限られます。
また、魚類の餌は種ごとにことなるため、専用の餌の購入が必要になります。
導入時には、活魚車等を使用しますので、その費用も必要です。

私の購入先は、高知県の山崎技研様または和歌山県のアーマリン近大様です。

2. 飼育について。メダカやキンギョと一緒にしないで!

2-1. 飼育環境
ブリなどの養殖魚は基本的に止水で飼育ができません。
常に水を供給して水流を作っています。
さらに、溶存酸素濃度を高く維持しなくてはなりません。
このため、水の置換率を高く保つとともに、エアレーションを水槽毎に行っています。

2-2. 匹数
飼育には魚の大きさに適した水槽を使います。
時に1水槽で1匹の飼育を希望される方がいますが、それはできません。
適切な密度で飼育しないと餌食い等が悪いのです。
また、成長における誤差が生じますので、可能な限り多くの個体を収容して飼育することになります。
一方で数が多すぎる飼育は、給餌後の急激な溶存酸素濃度の低下を引き起こします。

これらのことを試験終了時の大きさを考慮して、決定しなくてはなりません。

2-3.サイズ
試験の目的にもよりますが、小さいサイズの方が成長試験には適しています。
理由は成長が早いからです。
ただ、成魚にこの結果が反映されるか?というと微妙な事もあります。
当研究室では、マダイもモジャコも20g以上で試験を開始することが多いです。

肉質の試験などでは、もっと大きく育てた個体(1kg以上)を使用することがあります。

2-4. 反復数
魚の成長試験を行う場合、個体の成長を追うことは稀です。
だいたいは、水槽毎の成長を追うことになります。
そのため、水槽1つで、N=1という扱いになり、反復が必要になります。
反復数は3以上が望ましいですが、目的によっては2でも良いと判断する時もあります。

その他、増肉係数や飼料効率などを求める際には、摂餌量の値が必要になります。
これを個別の魚毎に得ることは不可能なので、水槽あたりでの評価が通常となっています。
個体識別をタグ等で行っても食べた量までは把握できません。

餌を5種類テストするとなると、15基の水槽が必要になります。
かなり水槽を使います。

2-5. 飼育期間
稚魚の場合は初期体重の3倍を目安としています。2ヶ月程度です。
幼魚の場合は12週間から16週間と長期に渡ります。

2-5. その他
試験には目的に適した、大きさ、数、時期というものがあります。
つまり実験のコンセプトがしっかりしていないと試験の内容を決定できません。

マダイは密度によってストレスを受けます。ブリもたぶん受けます。
そして高密度下では、成長が悪化します。
そのため、当研究室での成長に関する飼育試験は当歳魚のみで行っています。

また、試験における目的のサイズに達するまでの飼育を考慮されない方も多いですが、
魚をキープするだけで、施設利用費、エサ代、人件費がかかっていますので、
その分は当然、研究費として頂きます。

そして、終了時には魚を処分するかどうかの判断もしてもらいます。
処分=魚を殺すという行為になります。
麻酔での安楽死をさせますが、進んでやりたい作業ではありません。
どうぞ、魚の命を尊重した試験設計にしてください。

3. 施設

3-1 日長
一つ二つの水槽ならタイマーで制御したことはありますが、漏電の危険性が増えるのであまりやりたくありません。

3-2 水温
当研究室は、地下海水を汲み上げて飼育水を確保しています。
そのため、水温の制御はできません。
魚は変温動物です。高水温時と低水温時では、生理学的な状態がことなります。
これも考慮して試験をすることが必要です。

3-3. 水槽などの設備
水槽の数には限りがあります。
供給される水と酸素にも限りがあります。
上述の様に、1つの餌で3反復しますので、かなりの水槽を一度に使用します。
学生の卒論、様々な企業等の共同研究を行っていますので、
年度はじめに水槽の利用計画を立てています。
なので、突然、試験を持ち込まれても魚の面も含めて対応ができないことも多いです。

まだ説明が足りない部分があると思いますが、これらを私はマネージメントしています。
その上で、論文を書いたり、研究をしたり、学生の指導をしています。
なので、それなりに試験費用は頂くことになります。

飼育試験は目的に合致したデザインが重要です。
飼育技術にも加え、これも評価対象に加えてほしいものです。

【フカダ】




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