飼育はそんなに簡単じゃない。ーその1:設備編ー




卒論等で飼育を選ぶ学生が、飼育の方が簡単と思っている節があったので、これを記しています。

当研究室(深田)では、たくさんの魚を飼っています。
飼育している魚も通常の家庭では飼うことのできない回遊魚のブリ・カンパチ、そしてマダイです。
これらの魚を飼うためには、大きな水槽、大量の水(海水)、そしてエアブロアが必要になります。
止水での飼育や小さな水槽で飼育するのとは、かなり異なります。

このなかで、私が最も神経を使うのは「水(海水)の供給」です。
回遊魚は、溶存酸素濃度を高く維持する必要があります。
そして、餌の試験をすると糞などの排出で水が汚れます。
これらを解決するためには、大量の水(海水)を水槽に供給し続けることが必要となります。

利用している施設は陸上施設のため、電動ポンプを使って地下から海水をくみ上げています。
停電があればポンプは止まりますし、ポンプや井戸に異常が起きれば、やはり海水の供給に問題が起きます(今回のこのブログを書くことになったきっかけです)。
これらは、魚の死に直結するトラブルです。
魚が死んだら、企業や省庁からの委託試験もすべて台無しですし、卒論・修論もかなり厳しい状況に追い込まれます。
魚の死は、当研究室の死と私は捉えています。

魚と研究室の死を未然に防ぐには、やはり人間の能力が必要なのです。
トラブルは起きるものなので、盲目的な「大丈夫」は大きな被害を生みます。
・定期的なメンテナンスとチェック(専門の業者に委託と私や学生のチェック)
・異常の素早い検知(私や学生)

これを毎日意識して飼育を行うのです。
気を抜ける日などありませんし、これまでに気を抜いた学生の試験は失敗に終わること(大量死)に至ることが多かったです。

日々の気持ちの持ちようがかなり重要です。
私の場合、朝、施設の扉を開け、中に入るときからチェックが始まります。
1. 流れる水の音、エアブロワーの音、ポンプの音、臭いでまずはトラブルがないか確認
2. 次に水の色、それから音に加えて目視で水量やエアーのチェック
3. それからやっと自分の試験水槽をチェックしながら、餌やりの開始

毎日のことですので、私は音、水位、雰囲気を覚えています。
大きなトラブルは、扉を開けた際にすぐに気がつきます。

今回、当日の当番であった4名のうち3名は、異常に気がつきませんでした。
もう、この時点で飼育者としては失格です。
水の量がどう見ても少なく(私は音で気づいた)、ある水槽は濁っており、大きな水槽の水位は10 cm以上も低下してました。
私からすれば、気づかないのが不思議でしかないのですが、そういった観察眼のない学生が増えました。(興味がないだけなのかもしれません)
のこり1名は気がついたけど、いつもの水量の変化だと思っていた。とのこと。
危険なくらい水量は少なかったのに、その判断に至るのが私には理解できません。

飼育には、真面目さ、センス、判断力が必要です。
餌やりも魚の飼育も下手な人は、いつになっても下手くそのままです。
センスがあっても毎日きちんと通える体力と精神力が無いとそれを活かせません。
残念ですが、仕事だけでなく研究・飼育にも適性があります。
努力だけではどうにもならないこともあるのです。

毎日、こういったストレスを私は抱えて生活しています。
台風や雷では停電を心配し、停電の際に鳴る携帯電話を常に意識しています。
施設のことを忘れる時間はほとんどありません。
飼育の上手な学生が一人でもいるとこのストレスがかなり減ります。

死んだら新しい魚を買えば良い的な発言をする方もいますが、そんな心構えで飼育なんてできません。
死んだら死んだでその処分がどれだけ大変か想像もつかないことでしょう。
つらいですよ。死んだ魚を毎日相手にするのは。

この飼育の肉体的・精神的ストレスを感じて、はじめて飼育をしていると言えると思います。
私は、これをこなした上で、授業、学生の指導、研究室での実験や大学の業務もしているわけです。
いつも忙しそうにしてるね〜と言われてイラッと来る日もあります。
出張をするためには、学生をそれなりの飼育者にしなくてはなりません。

飼育あっての研究室、それが故に飼育の責任は重いです。

当研究室を選ぶ学生は、このつらさを覚悟して欲しいものです。
説明会でも伝えていますが、このつらさを想像できない学生も増えました。

飼育では、正解(100点満点)というものにたどり着くことはほぼ不可能かもしれません。
毎日、大なり小なり、正解を求めて考えることばかりです。


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