「海洋を考える」10月30日の補足と質問への回答


「海洋を考える」を受講の皆さんへ
  
まずは、授業の補足です。
1.     養殖ブリと天然ブリの価格について
過去1年程度の築地市場での天然ブリの平均価格は、600 /kg程度
同時期の養殖ブリの平均価格は、1,100/kg程度。
12月は、天然ブリの方が高くなります。このほか氷見のブリなどは天然ブリですが、数千円/kgという相場になります。

でもスーパーで売っている天然ブリ・養殖ブリの価格をみるとあまり変わりませんよね。どうしてなのかを考えてみると良いと思います。

2.     失敗談やネガティブな話について
私の授業を聞くことをできるのは、高知大学の学生だけです。なので、できるだけそういった話もして、いろんな問題を知って貰えたらと思っています。私の話は実体験ですので、きっとショックを受けることもあると思います。どの産業も似たり寄ったりで、別に水産業だけにある話ではありません。いろんな問題に対処するためには、きちんと勉強するとともに、強靱な体とメンタルが必要です。
問題は感情論では解決しないけど、人の感情に気を配るのも成功の秘訣です。

話を聞いて養殖業へのやる気が削がれた。
⇒それはそうかもしれませんが、あなたのやる気がその程度だったとも言えます。

質問への回答。今年は多かった。

1.     ブリ稚魚の入手先について
だいたいは天然種苗といって、太平洋で生まれた稚魚を用いています。ブリについては、3月頃から日本近海で獲れます。稚魚を捕る期間は短いため、天然種苗の資源量はそれなりに保護されます。各地で大きくなった天然ブリが豊漁なことをみるとモジャコ漁の天然資源へのダメージはあまり無いように思います。最近では、周年出荷等に対応するために、人工種苗も利用されはじめています。

2.     〇〇〇マダイを食べたけど、柑橘の香りがしなかった
こういったことがどうしても起きがちです。ただ、そのブランドは香りがすることを謳っていなかったと思います。けれど、一般消費者からみるといずれのフルーツ魚も同じに見えてしまうので、一つのブランド養殖魚が他のブランド養殖魚のイメージまでも悪くしてしまうことがあります。

3.     ブリを高DHA化しても味に変化はでないのか
ツナオイルを使うことで脂肪酸組成が変わります。つまりマグロに似てきます。不飽和脂肪酸含量も増えるので融点が低くなり、口の中で脂が溶けるように感じると思います。中トロに似ているとも言われました。

4.     養殖魚と天然魚について
 味の違いはもちろんあります。それも養殖魚の中でも天然魚の中でもあります。食べている餌や環境で味が変化しますので。
表示は法律によって決まっています。養殖魚には「養殖」との記載があるはずです。ブリの場合だと、天然魚は血抜きをしていないことが多いので、切り身に血がついていることが多いかも。養殖は血抜きしていて、かつ脂を載せているので白っぽいことが多いかな。

5.     地域連携の難しさについて
 私の場合、生産者さんが販売するように魚を飼育している生け簀をお借りして試験をします。なので、私は失敗してもたいした問題はないのですが、生産者さんは死活問題になります。そういったことをきちんと理解しないで現場に出ても、たとえ大学の先生でも相手にしてもらえません。

6.     DHA化は消費者が求めるニーズなのか?
 わかりません。ただ、昨年、評判が良かったのは事実です。そして売れました。フルーツ魚もそんなことを言われながら、気づけば普及しました。考えてわかるほどニーズを知ることは簡単ではないと思うので、やってみるか、地道に広告をするかですね。ヘタに考えて何もしないよりは、失敗を恐れず突き進むことも開発には重要です。きちんと勉強してチャレンジできる人間になってください。

7.     DHAブリときちんと表記した方が良い
 広告は難しいです。皆さんは大学生ですので、いろんな知識を持っていると思います。そういった方にはDHAという表記がプラスになりやすいです。ですが、DHAと言われても分からない消費者がいるのも事実なのです。今回もコメントでDHAが入っていると言われても少し気持ち悪いとありました。ただ、DHAブリをきちんと普及するなら根気強く説明(広報)することも大事だとは思っていますが、それは私の仕事ではありません。他人を説得するのって、想像以上に難しいですよ。

8.     ユズを試して偶然効果があったのなら、他の食材での効果を調べたり、比較した上でユズが優れている部分を示して欲しかった。
 調べれば分かることもあるので、コメントをくれた学生さんには、自分で調べて学習して欲しいと思います。90分の1回の授業ですと、概略しか話せません。そういった疑問に思ったことを、自分で調べるのが大学生だと思います。このように厳しい視点を今から持っているのであれば、きっと良い卒論研究ができるのではないでしょうか。実は、柑橘類での比較は愛媛県で行われており、ブリの褐変抑制においてユズが一番強い効果を示しました。また、食材ならなんでも良いわけでは無く、イメージや原料調達・価格の問題、ブランドとしてのストーリー性、そして魚とのマッチングがあります。私は、このブランドではこちらに重きを置いています。その他バナナ、ブドウの種、エノキダケの廃菌床などの利用もありますね。天然物で私が試した物だとユズ果汁の褐変抑制効果が一番強いです。

9.     鹿児島出身なので長島町のブリ生産量が日本一と知って誇らしくなった。

東町漁協へ「今の状態が続けられるようにがんばってください」と伝えておきます。

10.  なぜ、柚子ぶりの取組を愛媛で始めなかったのか?
 人脈がなかったから。日本一のぶりの生産地(鹿児島県東町漁協)とゆずの生産地(高知県・高知大学)でのコラボというのを頭に描いていました。もし、愛媛でやっていたら、もう高知大に私はいなかったかもしれませんね。

11.  マグロはEPでのデータ表示【増肉係数】がなかったが、どうしてか?
あまり普及していないので、手元にデータがありません。市販品でEPやツナフードという餌があります。ちょっと聞いた話だと、増肉係数はやっぱり高いですよ。

12.  四角の生け簀と丸の生け簀の違い
一時期、丸が普及しましたが、現在は四角に戻ってきているように思います。というのは、四角の方が生け簀を並べたり、魚を取り上げるといった作業がしやすいです。また、おそらく生け簀を作る側(鉄鋼屋さん)も四角の方がきっと簡単だと思います。丸のメリットはなんとなく、魚の動きを邪魔しないように見えることでしょうか。

13.  人間が食べられるものを餌として与えることについて
正直、私ももったいないと思うときがあります。でも、これって他の動物でも一緒なんですよ。結局、美味しい肉を作るためには良い餌なんです。もったいないと言いつつ、美味しい方を食べてしまう人が多いのではないのでしょうか。食料生産は人間の我が儘でもありますから。

14.  地域貢献で一番上手くいかなかったことは?
たとえ科学的根拠に基づいて良い提案をしても、個人の利害や根拠の無い意見によってそれが潰されてしまうこと。時には、それで干されてしまう人が出てしまうこと。何年もデータを蓄積して、その経営体の全体の利益を考えて提案したにも関わらず。正義が常にまかり通るわけでは無いけど、正義を貫くことが大事だと思っています。勝てば正義の様な考えは嫌いです。連携先の意志決定機関が、きちんと状況判断をし、たとえ少々の文句が出ようと全体の利益を追求するようなところであれば、苦労は少ないです。

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